特徴
サムエル記は本来一つの長い物語だが、一つの巻物に収めるには長すぎるので上下に分けられた。サムエル記上はその前半部分である。サムエル記には神に選ばれたサムエル、サウル、ダビデという3人の人物の生涯が物語られているが、物語の焦点はこの3人が人間的な弱さにも関わらず、いかにイスラエルを強力な国に変えていったかということにある。
なぜ、書かれたのか?
サムエル記上には古代イスラエルの初期の王が神に選ばれた経緯について描か れている。それまでの200年間、イスラエルは12の部族の緩やかな連合体であったとされ、必要なときには神が選ぶ士師と呼ばれる指導者によって治められていた。しかし、イスラエルは新しい形の指導者、すなわち他の国々のような王を求めるようになり、最後の士師となったサムエルは民のそうした要求に対処しなければならなかった (8.5, 19, 20)。しかし、王を求めることは、神が王であるとするイスラエル古来の信仰に反するとも考えられた (出 15.18、申 33.5)。サムエル記上には、この両方の考え方が表されており、王制に批判的な記述 (8.1-22、10.17-27、11.12-12.25) と好意的な記述 (9.1-10.16、11.1-11) が入り混じっている。
神は最終的にイスラエルに王を立てることに同意する。王制は民の生活に大きな変化をもたらし、その変化のすべてがよいものではないことを神は知っていた。王を選んだ後も、神に従うという約束は守り続けるよう、神は民とその王に思い起こさせる。しかし、サウルは神に従わなかったばかりか、新たに神によって選ばれた王であるダビデに取って代わられることを望まなかった。そのダビデも、王といえども神には従わなければならないということを後に思い知る。
どんな背景があるのか?
サムエル記にはB.C.1080年から970年、つまりサムエルの誕生からダビデの死までの1世紀余りのことが物語られている。これに先立つ士師記はイスラエルが約束の地を征服した後に無法状態に陥っていたことを語り、「そのころ、イスラエルには王がなく、それぞれ自分の目に正しいとすることを行っていた」という言葉で終わっている (21.25)。そうした内紛、混乱に加え、当時は常にすぐ西の地中海沿岸に住む攻撃的なペリシテ人の軍事的脅威にさらされていた。しかし、このような状況も間もなく変化を迎える。サムエル記上は敵であるペリシテ人の前に震えおののいているイスラエル十二部族連合という状況から始まるが、サムエル記下の終わりにはダビデが強力な統一国家の王として描かれるまでになる。この時期におけるイスラエルの信仰には目覚ましい発展が見られた。サムエル記上にはイスラエルの民が年に何回も集まって神を礼拝し、献げ物をしていたことが記されている。また、サムエル記下の終わりには、エルサレムが礼拝の中心地となり、ダビデがそこに祭壇を築いたことも記されている。その祭壇の場所にその後ソロモンが壮大な神殿を建てることになる。
構成は?
サムエル記上はサムエル、サウル、ダビデという3人の中心人物に従って三つの部分に分けられる。
サムエル (1.1 – 7.17)
サムエルの子供時代 (1.1-2.10)
幕屋で仕えるサムエル (2.11-4.1前半)
ペリシテ人との戦い (4.1後半-7.1)
サムエルによる統治 (7.2-17)
サウル (8.1 – 15.35)
民の嘆願 (8.1-22)
サウルの即位 (9.1-11.15)
サムエル、神への従順を民に勧める (12.1-25)
サウルの不従順と失脚 (13.1-15.35)
ダビデ (16.1 – 31.13)
ダビデの選び (16.1-18.5)
サウル、ダビデを敵視 (18.6-19.17)
ダビデの逃亡 (19.18-27.12)
サウルとその息子たちの死 (28.1-31.13)